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分科会座長 鎌田東二
●近代産業遺産の中にある摩訶不思議アートツーリズム●
古代遺跡や平安期から江戸期の歴史遺産ばかりが注目され、この世界に類を見ない
鎖国から開国に進み、一気に経済大国に成り得た時代の功労者、近代産業遺産はまさに利用価値のない代物と見られて来たわけだ。そして、現代はバイオ科学やロボット工学などの最先端科学に注目が集まり、いまさら古びた機械に、高齢化となった熟練者の技も不必要とされている。アート再生とは、そんな町の中に埋もれる近代産業遺産としての施設や構造物だけでなく、そこに置かれた機械やそれを動かせる高齢となった職人技こそ注目に値するもので、それを魅力的な観光資源に再生すると共に、製糸工場がモダン・アート・ミュージアムに変わったり、変電所がユニークな温浴施設になったりと、新たなイマジネーションと共に人々が集う意味を持たせるサービス産業創造、観光振興へと変身させるものである。
確かに京都、奈良のように国際観光都市として歴史遺産を多く持つ地域ばかりでは
なく、何ら観光資源を持たず、また特色をもたない地域が数多く存在する。観光という“観る”要素に着眼すれば歴史的な建造物や宝物が揃っていることが重要とされてきたが、従来の物見遊山なる観光形態から“たび”と“学び”が合わさった都市の内面を探求する観光形態へと移行しつつある今、それはまさに地域の観光デザインを捉え、その中に誰もが興味を抱き、面白みを感じる要素があるかを発掘することに他ならないだろう。つまりはその地域にある伝承、伝説、逸話、制度、信仰、古事、奇祭など、観光としての“観る”ものではなく、“聴く”“感じる”“触れる”という要素が新たな観光サービスを生み出す源泉となりうると考える。これこそが「摩訶不思議アートツーリズム」の観光再生が捉える要素と考えている。
近代産業遺産には、歴史的価値に評価がなくても、その土地やその産業、町の伝説、伝承などに「摩訶不思議」としての要素を探し出すことが出来る。例えば、NHKの人気番組「プロジェクトX」に見る伝説のサクセスストーリーや、勤続50年もの職人が死後も工場に出向き、幽霊になっても機械を動かしたなどの怪異なる話など、摩訶不思議というファンタジーを捉えた観光づくりは、最も身近なところの近代産業遺産から捉えるところに親近感と好奇心が広がる。空き家となり、放置され、荒れ果てた近代産業遺産であればあるほどに、その土地の伝説、伝承、逸話を伝える拠点としての空間演出に活用できるもので、神社仏閣、墓地、霊場などに存在する魔界なる裏歴史として取扱われるものでさえ、ファンタジー要素を前面に押し出した訴求をすることができる。それはまさにアートが持つ五感に向けたメッセージ伝達の手法が、怖い、面白い、元気が出る、好奇心が沸くなど、今までになく、身近なる摩訶不思議な観光が創られることに他ならないからだ。
近代産業遺産の中にある摩訶不思議アートツーリズムとは、まさに時代の中に取り残された建造物や機械であったり、伝説・伝承であったり、それらの人物像であったりするものが新たな観光デザインにてセレクトし、そこに“観る”というアート手法
を使った新たなサービス産業の創造と観光振興に役立てるものである。今までのように解体してマンションや分譲住宅にしてしまうのであれば、売り手と買い手(住人)だけの利用価値でしかないが、その近代産業遺産を残しながら、地域活性化の一助になり、尚且つビジネスとして採算性を捉えられるのであれば、そこに存在した貴重なる伝説・伝承までもが建物と共に後世に伝えられることにもなる。当学会、分科会にあっては、それら価値基準や再生の是非、方法論を産官学連携の中で研究、発表したいと願うものである。
(NPO法人 国際芸術文化センター理事/近代産業遺産アート再生学会理事/
ピュアサーカス プランナー 松 本 百 史(かずひと)
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